地球の誕生から現代までを4.6メートルのテープで表すと、
現代的な人間の歴史はわずか1ミリにも及びません。
そこに浮かび上がるのは、
地球が長い時間をかけて育んだ豊かな環境資源を、
人間がほんのわずかな時間で
使い尽くそうとしている、という事実です。
地球が誕生したのは今から約46億年前。生命は約35億年前に誕生し、現代的な人間は約10万年前、人類の歴史はわずか1ミリにも満たない短さです。初めは自然の循環システムの中で暮らしていた人間も、やがて農耕や牧畜により森林や草原を切り拓くようになりましたが、自然への影響は小さなものでした。しかし18世紀後半に興った産業革命により、人類は急速に環境へダメージを与え始めたのです。2百年余り前のことです。わずかの間に、森林の消失や温暖化、野生生物の絶滅など、問題が起きています。長い時間をかけて地球が育んできた「生命と物質が循環するシステム」を人間は一瞬で崩そうとしています。
けれども私たちは、破壊から再生へと転換する能力もまた、備えているのです。これからの地球がどの方向へと進んでいくかは、私たち一人一人に委ねられているといえるでしょう。
環境に負荷をかけない生活をするには、環境循環型住宅に暮らすことも1つの選択肢。森林や資源の保護に配慮した「地球1個分の家」を選ぶことで、生活の質を保ちながら、水やエネルギーを大切に使ったり、ゴミを減らしたり、無駄のない買い物をしたり、といったエコ賢い暮らしを楽しみながら実践できます。
このような私たちが元々目指していたビジョンと、昨今話題になっているSDGsの考えはリンクしています。
持続可能な開発目標(SDGs“エスディージーズ”)とは、2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2016年から2030年までの国際目標です。
持続可能な世界を実現するための17のゴール・169のターゲットから構成され、地球上の誰一人として取り残さないことを誓っています。
SDGsは発展途上国のみならず、先進国自身が取り組むユニバーサル(普遍的)なものであり、日本としても積極的に取り組んでいます。持続可能な開発目標(SDGs)を住まいづくりに取り入れ、環境に正しく、身体にやさしい“土に還る素材”を積極的に使用しています。
人間が生まれる前から私たち以外の生き物が、ずっと守ってきた、3つのルール。今こそ、それを思い出す時期です。
自然のサイクルは、地上に存在するすべての生命や資源を再生する能力を備え、地上で完結するシステムです。私たちが再び地球の一員に戻るためには、どうするべきなのでしょうか。答えは簡単です。
「自然に還すことができる以上にとらない」
「地下資源より地上の資源を使う」
「生物多様性を守る」
人間が地球に現れるずっと前から、動植物が守っていたこの3つのルールを、私たちも守れば良いのです。
木や水、食料など「再生可能な資源」を利用する場合、自然が再生できる能力を超えない量と速度で消費することが重要。例えば、木を1本切ったら1本植える。魚をとるなら自然繁殖で補える程度にする。水を使う場合、洗剤や殺菌剤など化学製品が含まれる排水が増え過ぎると、浄化作用を持つ微生物が生きられなくなってしまいます。だから、薬剤は自然が分解できる製品を選ぶこと。それが無理な場合は、使用量をできるだけ控えるようにしましょう。
家は数多くのの資材からできていますが、使わなくなった場合、無駄をなくす一番の方法が「リユース」。中古物件として誰かに住んでもらいます。壊さなくてはならない場合は、部材を「リサイクル」することで資源の無駄を減らせますが、どうしても捨てるしかない部材は「リターン」、自然に還すしかありません。ですから、家を建てたりリフォームする時は、再使用できる部材を使ったり、自然分解できるナチュラルな素材のものを選ぶことが大切です。
石油などの地下資源は、もともと地上を前提とした環境循環サイクルの枠外の物質。プラスチックなど合成樹脂は、燃やしても埋めても自然の再生能力をオーバーしてしまい、大気や土に負担となります。
何かを買うときには木や紙など地上でできたものを。地上の資源は循環の一部に含まれるので、Rule_01に従う限り自然に還ります。
私たちの身の回りには、地上のモノも地下のモノも含め、たくさんの物質であふれ返っています。ここでは、家の建材を例に「地上」と「地下」を見分けるヒントを紹介します。
パンダもヒマワリもバクテリアも、全ての生き物はそれぞれの役割があり、お互いに支え合って生きています。この命のつながりを生物多様性といい、例えば、私たちの食べ物飲み物の約30%は蜂のおかげです。しかし世界中、蜂が減っています。殺虫剤の原因でもあるので、殺虫剤などの化学物質の少ないモノ・建材や、化学物質の無いモノ(オーガニック)を選びましょう!
自然と人の暮らしが重なり合う里山は、生物多様性の身近な宝庫。あなたが暮らす土地も、昔はそんな里山だったかも知れません。家を建てさせてもらったお礼に、庭に小さな自然を作りましょう。かつてそこに住んでいた生き物たちが再び戻ってきてくれたら、毎日の生活がもっと楽しくなるに違いありません。
私たちにとって、我が家はいちばん身近な地球環境。国連でも提唱されている豊かさと環境が響き合うビジョンを取り入れて、持続可能な家造りを実現しよう。
今も、そして未来も。自分たちが生きている間だけではなく、子どもや孫たちの時代まで、地球に暮らす全ての人と命が豊かに生きられるように、水、エネルギー、健康、農業、生物多様性の5分野で、国連がキーワードを出しました。
私たちの家造りにも、このWEHABの考え方を取り入れて、5つの視点から具体的な数値目標を掲げましょう。目標を決めてエコダイエットに取り組むことで、進み具合が目に見えて実感できるため、楽しみながら地球に貢献することができます。
WEHABとは、2002年の「持続可能な開発に関する世界サミット」で、環境保護とよりよい暮らしを両立するために掲げられたキーワード。Water(水)、Energy(エネルギー)、Health(健康)、Agriculture(農業)、Biodiversity(生物多様性)の5つの分野の頭文字を組み合わせています。
よりクリーンな電化製品や自動車が販売されても、すぐに買い替えたりせず、今使用しているものが壊れるまで使い切ること。スクラップを増やすことは、買い替えで得られるプラスよりも大きなマイナスを環境に与えます。
有害物質の排出者にならないためには、どんな材料を使用しているか分からないものは、因果関係が不明でも念のため使用しないこと。
エコ住宅というと、一般的に「我慢」や「高価」といったイメージがありますが、本当にそうなのでしょうか。地球が喜ぶ家なら、住む人にとっても暮らしやすい空間になるし、無駄の無い家づくりは、ライフサイクルコストも抑えられるはず。そのような疑問に自らのマンションリフォームを通じて答えを見つけ出したのが、環境コンサルタントのペオ・エクベリさん、聡子さんご夫妻です。都心に購入した中古マンションを、一般的なリフォーム以下のコストで、快適さと環境性能を両立したエコ住宅に見事に変身させました。
リノベーションにあたって二人が念頭に置いたのは、「自然の再生サイクルを守る」、「地上資源を使用する」、「産地の分かる建材を使う」の3つのルール。このルールを守りつつ、より快適な空間づくりに挑戦し完成させたのが、One Planet House®「地球1個分の家」です。
地球に還すことができる素材で作られた室内は、自然の光と風が取り込まれ、高原にいるように心地よい雰囲気。夫妻はこの部屋でオーガニック製品を使ったり、ベジタリアンな食生活を送ったりと、環境に負荷を掛けない豊かな暮らしを楽しんでいます。
この暮らしを手に入れるために、二人が歩んできた道のりを振り返りながら、地球1個分の家造りと暮らし方をのヒントを探って行きましょう。
-
家造りで夫妻が思い描いたのは、スウェーデンと日本、二つの世界観を組み合わせたエコリフォーム。スウェーデンのエコ建築の特長である「ホリスティック」や「効果を数値で計る」という考え方と、日本の伝統と現代技術を取り入れた家造りです。
その上で、前ページの3つのルールと快適さを両立させた「エコ賢い住まい」を実現させるには、二人の考え方を理解し、具体的なデザインや施工に落とし込めるリフォーム会社探しが必須でしたが、幸運にもその理想に共感してくれるリフォーム会社との出合いに恵まれ、「地球1個分の家」づくりがスタートしました。 -
エコ先進国スウェーデン出身で環境コンサルタントのペオさんと、株式会社ワンプラネット・カフェ代表の聡子さん。海外エコツアーの主催や本の出版などを通じて、サスティナブルな暮らしをわかりやすく伝える活動を続けています。
二人の計画は、都心で手頃な価格の中古マンションを購入し、「エコ賢い住まい」にリノベーションすること。そこで二人は目指すべき項目を具体的にリストアップし、漠然とした理想から現実的なプランを導き出すことから始めました。その上で、このプランに合致する物件探しとリフォームの依頼先選びをスタートさせていきました。
-
自然素材を使うことはもちろん、古くなって廃棄するときには土に還る建材を使用。生産過程で農薬や化学物質を使用した資材も避けたいものです。
できるだけ無駄なエネルギーを使わない効率的な設計と、グリーン電力と省エネシステムの導入も重要。
環境に配慮することは昔の生活に戻ることではありません。現代的な設計や技術を取り入れ、無理なく快適に暮らすことは、エコ賢い暮らしを長く続けるための大切な条件のひとつです。に暮らすことは、エコ賢い暮らしを長く続けるための大切な条件のひとつです。
物件は見つかったのですが、なかなか思うようなリフォーム会社に出合うことができなかった二人。数社回ってやっと巡り合えたのが、One Planet House®。もともと環境意識が高い会社だったため、ご夫妻が家造りに求める理想にも丁寧に耳を傾けてくれたので、目指すべき方性を共有できたそうです。One Planet House®からもたくさんのアイデアの提案があり、最終的に約100項目にもおよぶエコの取り組みを導入できました。
-
理想の家は業者と一緒につくり上げていくもの。施主の価値観を共有し、同じ想いで家造りに向き合ってくれる会社を見つけましょう。
トレーサビリティを確保した建材や環境負荷の少ない無垢材、断熱材や塗料の成分などにも詳しい会社なら、要望に応える力も十分。
自然にやさしい建材や、エネルギー効率を高める技術、さらには助成金制度など、専門家ならではの情報に通じていることも重要です。
エコ賢い暮らしは住宅を建ててからが本当のスタート。毎日の暮らしに取り入れられるアイデアを継続的に提案してくれる力もポイント。
-
二人は「エコを数値で計らないのは、体重計のないダイエットと同じ」というスウェーデンの考えから、暮らしの中で実現したい目標を数値で掲げました。日本の平均的世帯と比較して、水、エネルギー、ゴミ、CO2を少なくとも50%減らすこと。そしてグリーン電力の100%導入です。
※2011~2013年のデータ
作業で出たゴミをリユースやリサイクルするなど、施工段階から環境と循環に配慮したリノベーションがいよいよスタート。夢の実現が目前となりました。
スウェーデン出身、在日20年以上。
・One Planet Cafe共同代表、環境マネジャー
・武蔵野大学(東京)非常勤講師
NGO環境団体のリーダー、ジャーナリストを経験。
日本全国でサステナビリティのための講演、コラム執筆、テレビやラジオの環境番組でコメンテーターなどを行う。
主な著書 「うちエコ入門」(2007年、宝島社、第3版)